■栃木/足尾 松木沢幕岩「レンジャークラック」開拓[登攀]

2024/10/20 鈴木、他(会外)


2023年2月にアイスクライミングの帰りに見掛けた洞窟状の見事なチムニーが気になり、その2週間後に自衛隊の空挺レンジャーと共に2P5.9のルートを拓いて「レンジャーチムニー」と命名した。

後に登った人からは5.10aとする意見もあったが、クラックルートなので体格などから体感に差が生じるのだろう。

 

また、この開拓の翌週には、世界的記録を持つ若手有望イケメンクライマーが同じラインを拓きに来て我々の開拓を知り、「最低限のボルトで異世界のようなクライミングを楽しめる面白いルート」と紹介してくれた。

松木沢のような歴史のある場所でありながら、狙ったラインも時期も重なるとは、まるで滝谷の初登攀や、一ノ倉コップ状岩壁ハング越えの逸話のようで、クライミングの歴史の中に入り込んだような感覚を覚えた。もちろん錯覚だろう。

その後、知らない人からも「登りたいので詳細を教えて欲しい」等の連絡をもらうなど、そこそこ再登者を迎えているようで、ネットには「楽しい」「面白い」等の感想が見られ、自分が美しいと感じたラインに共感してもらえることは嬉しかった。

 

そして、そのレンジャーチムニーに気付いた際、横にあるリッジの側面を走る顕著なクラックにも惹かれていた。

最低でも100mはあり、上部の凹角も繋げればかなりの長さになる。

この幕岩の同志会ルートの左側一帯はゲレンデ的に多く登られていて、沼田の大社長さんなども様々なラインから登っているようであったが、このクラックの一番下、チムニーを右上していくピッチは手を付けられていない様子であり、いずれにしても一直線に登るラインを引いてみたいと思った。

 

こちらはレンジャーチムニーと違って冬は雪の影響を受けるので春を待って着手し、7ピッチのルートになることが分かり、確保支点を整えてほぼ完成した。

 

だが、夏に支点の補強も兼ねて改めて行くとスズメバチの巣が出来ていたため、発表は控え、一年待ってスズメバチ対策を用意しての今回の登攀となった。

 

空挺レンジャーの相方が日本登攀クラブに籍を置いていることから日登から若手二人が来てくれたが、あえて言えば、私が高校時代の同窓会があった土曜日に「明日行きませか」という空挺団らしい奇襲的お誘いだったため、山登魂の仲間に声を掛ける余裕が無かったのが残念であった。

また、以前から興味を示してくれていた山登魂のオールマイティースーパーストロング女史も太平洋の向こうのいるのでお誘いできず申し訳なかった。

 

そうした中で始まった今回のクライミングだったが、初めて会った若手の空手黒帯君は現在5.13aのルートにトライしているという。なので、私は悪徳代官か大商人と化し、「先生、宜しくお願いします」と核心の1ピッチ目をお願いする。黒帯君は迷い無く登っていき、そのムーヴを真似してフォローすると私もこれまでよりすんなり登れた。やはり学びは大切だ。

一方、中学3年でベンチプレス100kgを上げていた空挺レンジャーはその凄すぎる筋肉のため逆に苦労が多いようで、汗だくになって上がって来た。やはりクラックは個人差が大きい。

もう一人のこれまでも一緒に登ったことのある超好青年君も、率先してリードしたり献身的に動いてくれるので、私は口と脳ミソだけ動かしていればよかった。

そうして、スズメバチの巣への対策も含めて楽しく登り終えることが出来た。

アプローチが楽で、様々なクラックを楽しめて、アルパインムードもある登り応えのあるラインになったと思う。


情報としては

7ピッチ 5.9

で、下部3ピッチが面白く、チムニーからフィスト、ハンドなど様々なサイズのクラックを楽しめる。

上部4ピッチはうってかわって松木沢らしい石垣のような岩と浮き石に注意しながら上部へ抜けるアルパインチックなラインとなるが、対岸から見上げたラインとしては美しく、高度感や達成感を求めるには良い。

ランニングは全てカムか木から取ることができ、キャメロット1セットとエイリアン1セットがあるとよく、キャメロットは5番があると安心である。

 

ピッチグレードは、(概ね)下記の通り。

1P チムニー 5.9  30m

2P チムニー~フィスト 5.8  35m

3P ハンド、フィンガー 5.9  25m

4P 凹角 Ⅳ  25m

5P リッジ Ⅲ  30m

6P 凹角 Ⅳ  40m

7P 凹角 Ⅲ   30m

 

1P目については当初5.8とする意見が多かったが、ジャンダルムの5.8のピッチより明らかに難しいという理由と、レンジャーチムニーが5.9としたのが再登者からは5.10aとの声もあったことなどから「松木沢グレード」として5.9としている。

また、1P目は右上していく中、下手に落ちると鉛直方向に振られてそこにある鋭角のハングでロープが切れる恐れが高く、フォローも含めて安易に取り付くと大変危険なので、そうしたリスクも鑑みたい。

 

懸垂での同ルート下降がお勧めで(5P目のリッジは歩きも可能だが両側は切れ落ちているので注意は必要)、2P目終了点から同志会ルート取り付きへのガリーに下りることができ、1P目の取り付きに置いた荷物を回収して帰れる。

 

アプローチは2段堤防の下を徒渉となる。

下流のジャンダルムの下に新たに造られた橋は渡ってもその後の道がどん詰まりとなる。 

 

所要時間は銅親水公園~取り付きに1時間程、ルートに3~5時間程、下降に1.5~2時間程。

 

なお、アプローチは途中までマウンテンバイクを使うと快適。

銅親水公園には水道やトイレは無く、歴史的公害のイメージの強いエリアだが徒渉点の流れは綺麗に見え、気にしない人はそこで水が汲める。

 

以上です。

興味のある方は、美しく上まで伸びる「レンジャークラック」のラインと、近くて日帰り可能な足尾周辺を楽しまれて下さい。

 

最後になりましたが、いろいろ登られているエリアであり、初登攀等をアピールする訳ではなく、ラインの提案と整備を報告するものと捉えて頂けると幸いです。


おまけとして、帰りの食事は水沼駅前の早房(はやぶさ)食堂が素晴らしく、何を頼んでも美味しい。ラストオーダーは19時半。

お腹のグレードに自信のある人は何も見ないまま「カツカレー大盛り」(1,300円)を頼んで下さい。誰でも驚きます。食べ切れなかった場合はパック(10円)に移して持ち帰れます(空挺レンジャーはもちろん、私も完登!)。

 

お風呂は早房食堂の目の前、駐車場もあって駅のホーム内という立地の水沼駅温泉センター (2024/10現在臨時休業中。2024年秋再開予定。要確認) が近くて楽しめます。

 

お風呂が食事の後になってもいい人は熊谷市内にある熊谷天然温泉熊谷スパリゾートがお勧めです。1,050円の料金が信じられない程の巨大かつ充実した施設で、GoogleMapの評価は約4,000件(!)で4.3です。


※レンジャーチムニーと今回のレンジャークラックの写真は下記になります。

 

松木沢幕岩 レンジャーチムニーのある岩峰

 

レンジャーチムニー 1P目 下部

 

レンジャーチムニー 1P目 上部トラバース

 

レンジャーチムニー 2P目 

 

松木沢幕岩 レンジャークラックのあるリッジ

 

レンジャークラックのライン

 

レンジャークラック取り付き

 

レンジャークラック 2P目(対岸より撮影)

 

レンジャークラック 6P目


 

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