アメリカ/シェラネバダ山脈/ハイシェラ
インクレディブル・ハルク(The Incredible Hulk) "The Venturi Effect"
場所:アメリカ High Sierra北東部 The Incredible Hulk
日程:9/2-9/6
メンバー:伊佐見(記)、葉狩
最高だぜ!ハルク!
日の出前の暗い中Mono villageに向かって運転しながら、つい3日前Red diheadralからThe Incredible Hulkを登頂した際に山頂のメッセージボックスで見つけた日本人の書き込みを口に出した。
意識して言葉にすることで、「自分は楽しみに来ているんだ」と心を落ち着かせることができた。
なにせ天気予報が悪い。明日、明後日、明々後日と午後から雷雨の可能性という予報だ。
しかもアメリカ入国から4日間も雨で入山できず、その後Positive VibrationとRed diheadralの登攀とレストで6日間経過しており、これ以上待てなかった。
Mono villageからつい先週往復したトレイルを歩く。Yosemite wilderness の北東隣に位置するHoover wildernessに入り込むこのトレイルは標高2200mのTwin lakeから始まり、巨大なパインツリーの森を過ぎると左右に3000mをゆうに超える雄大な山が現れだし、まったく良い気分になる。
途中で道を分かれ、Robinson creekを渡り、小川が流れるlittle slide canyonに入る。下りてきたクライマーにVenturiはone of the bestだが、今日の天気予報知ってるの?と言われる。


Hulk基部にテントを張り、早速1ピッチ目12aをトライ。ガイドブックよりも長く50m近く、コーナーからルーフ、左上フレークとパワフルな登りが続いた。なんとかOS。ルートが屈曲しているため80mロープぎりぎりでトップロープを張ることができたので葉狩さんもトライしたが、途中から小雨が降ってきて終了。テントまで10分。
その後18時過ぎまで雷雨。山中に轟音が鳴り響き、テントから何度も稲光が透けて見え、自分のボロエスパースが浸水しないか、不安で落ち着かなかった。


9/3朝は晴れ。下から日帰り予定で上がってきたSteph(度々出会った女性。Dirt bag?)に追い越されるが、壁はwetだと言われる。昨日のフレークやその上のPositive Vibrationのコーナーから染み出しているのがはっきり見えた。この日は諦めて、対岸のlitte slide spire にあるOutguard
SpireのEast Face direct(10d、6ピッチ)を登った。フリークライマーとしてはレストすべきなのだろうが、晴れているのに登らないのは何か間違っている気がしたので。吉と出るか凶と出るか。
居合わせたForestとAdrianと仲良くなる。
9/4も晴れ。また下から上がってきたStephと情報交換。今日明日の天気予報はIt became IMPROVED !と良くなったらしい。気持ちが上がる。
最初のピッチはまだ濡れており、エイドで抜ける。一昨日登れて良かった。次の10aを越え、右側の11dを登る。カムが効かないフレアセクションがあり、緊張感があった。4ピッチ目、核心のBook of Secrets。その名の通り本を開いたような凹角。序盤はダイクが水平に何本か走っており登りやすいが、後半になるにつれ散らばった結晶を拾うようになり、それがどんどん少なくなってくる。凹角が茶色いこともあり、文字が消えかかった古文書を読み解くよう。ステミング、レイバックでジリジリと高度を上げる、おそらく3カ所ある核心の最後の結晶1つを見逃し、足が滑ってフォール。あと3ムーブだった。
明日風が強くなる予報もあり諦めて登頂を優先しようとも思ったが、「もう一回トライしたら?」との言葉をもらい一度下りて2回目でRP。オンサイトは逃したが早々に登れ、とてもうれしかった。ただかなり疲労感が残った。
次の11dのレイバックがダメ押しでさらに効く。Bivy ledgeで一息。
ここからPositive Vibrationを下りることもできたけど、試しにヘッドウォールのThe Shield 3ピッチにもトライ。あまり食料を食べなかったことによるシャリバテか、感情が無になり、やる気も力も出てこない。10aピッチを越えた先の12aピッチにあるボルダームーブでフォール。悔しさも何も感じない。難しいところは1カ所だけだったので再トライでRP。次の12bは130ft 40mのロングピッチ。完全に果ててしまい、テンションだらけでトップアウト。この日は諦めて懸垂下降。19時テン場。疲れがあり明日登るか迷いながら就寝。



9/5も晴れ。風が少しある。
Positive VibrationからBivy ledgeに向かう。同ルートは2回目なので順調にRP。Bivy ledgeからVenturiに合流。10aを登り、葉狩さんがやりたいとのことで12aをトライ。一発でRP。次は昨日登れなかった12bロングピッチ。中間部核心を超えても後半のムーブでスリップする可能性があったが、落ちなかった。
次は複数のボルダームーブを含む12c。ボルダームーブからストレニュアスでパンプしてくる中間部のクラックを耐え、スラブでダメ押しのボルダームーブ2連発。不思議と落ちずに越えられた。このピッチを1回で終えられたのは大きかった。
ルート名の由来となった次のThe Venturi 11dは葉狩さんにやってもらう。2m上部のボルトにクリップし、ビレイ点に戻ってダイクを3mほどクライムダウン。そしてボルトの高さよりやや高いところまでフィンガークラックをレイバックで上がり、後半は5.10くらいでハングを越える。クライムダウンでポロッと落ちてしまったけど、無理を言って最初からトライしてもらいRP。狭いハングからThe Crow's nestというテラスに出ると一気に視界が広がる。
最終ピッチは40m 11dのクラック。序盤のテラス以降からカムの座りが良くなく、中間部ダブルクラックはどちらも割れ目が閉じ気味でプロテクションが取りにくく、疲れた身体にはかなりきついピッチ。後半には腕が攣りはじめたけど、岩をよく読んでOS。終了点から稜線上のボルダーまで上がり完登とする。
下りてAdrianとForestに報告、暗くなるまで談笑。知らないクライミングエリアの話も聞けた。次はどこに行こうか。




3日もかけたけど、The Venturi Effect全ピッチRPは想定以上で個人的には満足できた。
The Incredible Hulkには2004年に開拓された同ルートの他、同じくらいの難度のSolar Flare 12d、さらに難しいAirstream 13b、2014年開拓された比較的新しいWind sheer 12b等、満足感を得られるスケールと難度のルートが並んでいる。
昨年choose joyなる13aが開拓されたり、今年7月The Venturi EffectのバリエーションNalazak 13dがトミーとアレックスによって14年ぶりに再登され、少しホットなのかもしれない。
もちろんこの壁の代表的な2本、Red diheadral 10bとPositive Vibration 11aはとても人気があり、後者はCalifornia classicsにも選ばれるほどで、どちらも最高のルートだ。
もし夏にクールでホットなクライミングを探している方、こんな山もどうでしょうか。
最後にHigh Sierraの精通者Peter Croftのかっこいい動画を紹介しておきます。
https://youtu.be/rGA1vI2HxTs?si=3nTvveOhZsKoSXEV
【参考】
適期:The Hulk山頂で標高約3,444m、岩場が北西を向いており、普通は夏場7-9月が良い。6月下旬の記録もあった。コンディションを気にするクライマーは10月?との噂も。早い時期には残雪があり、クランポンが必要。
気温は夜中5℃くらいまで下がったと思うが、午後12時過ぎから西面ヘッドウォールには日が当たり、やや暑いくらいだった。今回は常にアンダーウェアを着用。防風対策も必要。基本的に寒い。
※ 非常に夏暑かった2024年と違い、2025年の気温はmoderateとのこと
天候:High Sierraと呼んでいるシエラネバダ山脈東部は南から入り込むモンスーンによって夏場よく雷雨となるらしい。天気が悪くなる場合、昼過ぎから崩れだすことが多いようだ。カリフォルニアでは度々山火事もあり、煙が原因の天気"smoke"ということもある。
入山許可:事前にパーミッションが必要。2人で1期間22ドル。オンラインで購入可能。little slide canyonは1日8人まで、オンラインでの事前取得が可能なのは半分の4人と枠はかなり少ない。事前に取得できなかった場合、現地レンジャーセンターに出向く必要がある。
熊対策:キャンプ場ではないので食料を保管する鉄の箱Bear Boxは設置されていない。各自でBear Canisterというボトルを準備し、その中に食料を詰め込んで保管しておく必要がある。これは熊が開けられないようスクリューにストッパーがあり、頑丈な樹脂でできている優れもの。ネズミ、リス、マーモット対策にもなる。軽い食器も入れること。最終日、動物にスプーンを盗られてしまった。
テント・食事場所・食料保管場所の3つを分けるとなお良い。
その他:
・水場 小川から採取。気になる人は浄水器持参。
・トイレ なし。携帯トイレ(wag bag)等が必要。
※周辺情報などははがりんの書いたこちらの方が詳しい
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