谷川幕岩 Cフェース洞穴ルート



1P目(V+、30m)鮎島
 簡単そうに見えたスラブから大ハング下を目指してロープを伸ばす。しかし、簡単そうな階段状に見えたスラブは外傾したヌメヌメスラブで、支点もろくに取れない。非常に恐ろしい。古ぼけた残置がなんとも心強い。ハング下でアングルを打って右にトラバース。スタンスはしっかりしているが、高度感があり怖い。残置スリングがかかっているところでエイリアン黄とナイフブレードで支点を増強してピッチを切る。
2P目(X−、35m)高田
 『澄み切った空に彼の体が浮かび出てやがて見えなくなった。ザイルは延びて行く、じりじりとザイルだけが延びて行く。私はそれを見つめながら、ふと、ギド・レイが書いたマンメリー・クラックを登るアンジェの描写を思い出した。彼は岩の向うでアンジェのように闘っている。』安川茂雄の幕岩Aフェイスの記録の中からの抜粋である。ビレイしている私からみた風景はまさにこの通りだった(アンジェ?もちろん誰だか知りませんが)。このピッチのリードに1時間半要していた。ビレイ点はハング下にあり、声も通らずどうしたものかとセカンドの私もビビっていたのだ。この頃から時間を先読みするとなんだか嫌な雰囲気が流れ出す。ルートはいきなり、いやらしいトラバース。クーロワールルートならこんなところないはずだが・・。残置はたくさんあるが、どれも使えない上にホールドは細かくヌメっている。エイリアン紫でランナーを取って潅木帯への8mが核心。セカンドで行ってもトラバースなので嫌らしい。乾いていればW+ぐらいなのかもしれないが、体感はX−はある。それから潅木沿いに10m登って再び濡れた岩壁となっているがロープはそちらへ伸びている。私もそこを登るべく取り付いてみるが、ハング気味で非常に嫌らしい。おかしいなということで、「高田さん、これどうやって登ったの?」と聞けば、「右から」との返答。なるほど、もう少し潅木バンドをトラバースしてから登るのかということで右へ行くが、そうするとロープはまったく流れない。安定しているのでロープをはずして、再度結んでいくと、確かにV級くらいで簡単だった。で登っていくと、「あれ、そこから来たの?」との声が、どうやら高田さんは私には絶望とも見えたあのヌレヌレ外傾ハング10mを登ったらしいのだ。私には信じられん。絶対にX+はあっただろう。あとで途中にキャメ#1でランナーをとっていたらしいことが判明したが、もう後の祭り。
3P目(V、15m)鮎島
 ビレイ点から5mあがって右へトラバースすると小ルンゼとなった。先ほどのロープ操作でロープがキンクしており、安定しているので、ここでピッチを切る。
4P目(V−、15m)高田
 簡単であるが、高度感がありまたヌメっているのでので慎重にロープを出す。セカンドは肩がらみで。ようやく安定し、落ち着く。ここでもう一度資料を読み返してみると我々が登ったルートは、「Cフェイス洞 穴ルート」というものに相当するらしい。あとは傾斜の落ちたスラブをノーロープで詰めるが、ところどころV級クライムを余儀なくされるところもあり、冬季登攀する場合はいやらしいだろうなぁと思う(実際にさびたハーケンも発見)。そして、ようやく幕岩尾根に到着。時間にして15時。さてここからどうやって下山するかだ。つまり幕岩尾根を登るか下るかだ。登った場合、国境稜線まで1時間半、谷川岳まで1時間、オジカ二俣まで1時間半、谷川温泉まで1時間。となれば・・20時か。厳しい。下った場合、資料にはオジカ二俣まで2時間と書いてあるから明るいうちには駐車地には下れそうだ。それなら下るしかないでしょう。 しかし、この下降も・・。濡れた草付は滑りやすく、また道が分かりづらい。幸い、視界があるのはうれしいが、天気予報は夕方から雨といっていたようなで実際にガスりはじめている。さらに途中から完全に懸垂下降の連続となるが、潅木が連なるところではなかなかロープが流れなかったり、時間計算から来る焦りで登り返しも多発。なんとか鷹巣A沢へ下ったときには二股についているはずの17時。 そこからは沢を下り、実際にロープを出すところはなかったが、鷹巣本谷までがなんとも長く感じられた。そしてそこから谷川本谷までも。そしてそこからオジカ二俣までも。徐々に増えていく水量に発狂した。雪解け水は冷たいがもうどうでもいいとばかりにジャブジャブと胸までつかり下った。そして本当に二俣についた登山道に降り立ったときはうれしかった。18時。そこからヒルの恐れはあったが、それよりも明るいうちに下山するしか頭になく、無我夢中に歩いた。
 19時、駐車地に付いたときには案の定、ヒルが二人とも足にまたもや片足2匹ずつ引っ付いていた。

【谷川温泉0600、Cルンゼ出合0815、洞穴ルート取付1130、稜線1500、谷川温泉1900】

 2006.7.28 鮎島 記

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