北アルプス南部/錫杖岳前衛壁/注文の多い料理店
期間:2010年10月24日(前夜発日帰り)
隊員:L渡辺(記録)、高橋、細谷(アプローチ及び帰路は
ジェードル隊:高田・天田と乗り合わせ)
形態:クライミング(マルチピッチ)
2年前の夏、寺本さん、山崎さん、大部君と錫杖に行った。
その時は1ルンゼ、3ルンゼ、左方カンテ(山崎スペシャルバージョン)を登ったが、とにかく厳しく、特に1ルンゼは濡れていたこともありグラグラゆれるハーケンでA1を強いられた挙句に精根尽きて敗退するなど、痛い目に遭った山だ。
あれから2シーズン、途切れ途切れながらもクラックを練習し、最近はフリーもちょっと頑張った。いよいよ、その成果を出す時が来たのだ。
あの時、圧倒的にぶったって見えた北沢フェース。その中の弱点であるクラックシステムを辿る「注文の多い料理店」。グレードを見ると5.9である。クラックの5.9…不安になる。大体5.9ってことはRCCグレードに直すとYである。超不安である。しかし、飲み会で代表高橋様の誘いに「じゃあ行きますか」(ほとんど記憶がない)と言ってしまった以上、行く道は行くしかないのである。まあクラックってことは、カムさえ持っていけばいざとなればA0し放題だしなとか逃げ道も作り、心の準備。出発前日に財布をなくし、モチベーションが一時マイナスまで下がったが(約1万&各種銀行カード、クレジットカード、図書館のカード等ライフラインの全てが入っていた)、出発直前に職場の仲間から借りた5000円札1枚だけを握り締めて山に行くというのも俺らしくて良いと開き直る。こうなったら意地でもOSしてやる。
細谷さんが加わり、高田&天田組と道中を一緒することになったが、やることは変わらない。行く道を行くだけだ。
10/23 18:10西国分寺→中央道→松本→安房トンネル→23:00ごろ新穂高温泉駐車場
大した渋滞も無く新穂高温泉へ。土曜に同ルートを計画した井草・小坂隊からは「貸切でした」なんてメールが。すげーな。
明日は天気が今日よりぐずつくから俺たちも貸切かもなんて淡い期待を抱く。
さっさと寝るはずが意外と宴会で盛り上がってしまった。
10/24 4:30起床 5:20ごろ出発 7:10ごろ錫杖沢出合 8:00ごろ北沢大滝下(注文取り付き) 13:00左方カンテ最終ピッチ終了点 13:40下降終了 14:15下山開始 15:50駐車場 21:30ごろ西国分寺解散
眠気眼を無理やりたたき起こして起床。とりあえず寒い。流石奥飛騨である。さっさテントたたんで出発。急登がキツイ。
やがて日が出てきたが、どんよりとした曇り空である。紅葉が見頃。渡渉してしばらく行くと錫杖がドデーンと見える。うーん凄い。どこにも弱点なんてなさそう。唯一登れそうな3ルンゼも笑っちゃうくらいすごい迫力だ。
錫杖沢出合で小休止した後、前衛壁へアプローチ。1ルンゼの取り付きに出てしまったので左トラバースし、左方カンテを回りこんで北沢からのガレの押し出しを詰めると、北沢大滝の下には既に5人も屯している。しかも注文には3人組のパーティが取り付いている。流石人気ルート。しかし5人のうち2人は「見張り塔からずっと」へ行くとの事で、本日の注文は3人パーティ×3。その最後のパーティが俺たちってことか。まあちょうどいいだろう。
※グレードは渡辺の体感
1P目 高橋
W-
しあわせ未満のハング右の立ち木があるテラスまで。一見どこでも登れそうだがルーファイ間違えるとハマる。カムよりハーケンが有効な感じだが持ってきていない。しかしここでハーケンがないとのぼれないようでは上のピッチも登れないだろう。
2P目
細谷 W+〜X-
出だしを左トラバースしてからスラブともコーナーとも言えない壁をテラスまで。クラックがフレアしており、たまに浮いている岩もあってあなどれない、本ちゃんチックな隠れ核心。グレードでは表せないいやらしさがある。
3P目 渡辺
5.9
頭上のハングを越えて傾斜の緩いコーナークラックをハング下まで。ハングの出だしと舳先にキャメC4の#4を2発、のっこしてから#5を1発。レイバックが怖かったのでオール正対のフィストジャム多用。#5決めた先も#4〜5くらいの広めのクラックが続く。既に弾切れなのでランナウトせざるを得ない。しかも先行パーティが狭いテラスでハンギングしており、ランナウト状態で待つしかない。(幸いレッジが安定していた)。先行が登り始めたのでこっちも登り、最後の#5から5m強ランナウトして#3が決まったときはほっとした。
4P目 高橋
W+
出だしはまたもハングだが簡単。その先のコーナークラックは、傾斜こそ緩いがあなどれない。
問題は、クラックが広くて使えるギアが限られる事。出だしに#4、コーナーで#5が正解か?高橋さんは出だしで#5を使ってしまったためずっとランナウトしたようだ。
5P目 細谷 W
ダブルクラックを登り、どん詰まりの大岩下を右トラバースに出れば左方カンテの大テラスのようだが、我々は左のカンテからそのまま左方カンテに合流。後半は結構ランナウト。右手には左方カンテのチムニーが見え、その向こう側でジェードル隊がコールを送ってくる。あっちは既に成功したらしい。早いな〜。
6P目 渡辺 W
脆そうで意外と硬いフェース。先に登って降りてきたパーティーに「怖い」と脅されていたので構えていたが、こういうのは慣れている。出だしランニングが取れなくて怖い。残置にクリップしてしまったがここは仕方ないだろう。
懸垂3〜4発で取りつきへ戻った。
ビレイ点(下降点)はそれぞれペツルのケミカル施工で完璧。傾斜が急なのでザイルが引っかからず快適。
下山中に雨が降り始め、駐車場に戻る頃には本降りになってしまったが、岩壁で降られなくてよかった!
帰りは岡谷ジャンクションで高橋様が名古屋方面に舵を切った。まあよくあることだ。
次の伊北ICで降りて、出口近くで高田さんが「だめもとで事情説明してみない?」と提案し、高橋さんが有人出口で事情を説明すると、なんと無料で折り返しさせてくれた。こういう措置を皆が知っていれば逆走が減るだろうに…悪用されたくないから道路公団も大々的には言わないんだろうな。
みどり湖PAは定食の質が高く満足したが、いつもどおり小仏で渋滞。なんとかしてくれ。
雨の中西国分寺で解散した。
終わってみれば楽勝だった! (笑)
3人パーティでいちいちザイルを組み替えたにもかかわらず、順待ちの時間を考慮すると実質的には5時間くらいで登ったことになる。3人パーティで負担が軽かったのはあるな。細谷さんの5P目なんぞ、「おー、怖そうだね」などと抜かしながらナベ・高橋二人してタバコをフカしていた(その後下降してきたパーティの一人目もタバコを吸い始め、テラスにヤニーズが3人も揃うと言う今時珍しい光景が…)。
でも、はっきり言って瑞牆山・カンマンボロン中央洞穴の方がずっと難しかったし、ランナウトと言う意味では足尾ウメコバ沢中央岩峰右ルートの方が緊張した。ちっとは成長したのか?
何しろ、北沢フェースを見上げた時に、2年前より「寝ている」と思ったのだから。(取り付いてみるといつもどおり「畜生、意外と立ってやがる」と思ったが)
充実感は今ひとつだったが、なにしろ残置は1ピッチ目のフェースで1本と、左方カンテ合流後に1本使ったくらい。街中の自販機よりも狭い間隔でルート上に残置が見られる日本では貴重なルートだ。
使用ギア:キャメロットC4#0.5〜#0.75各1 #1〜4各2、#5×1
エイリアン4個
超上手い人以外は、キャメC4の#4を2個、#5を1個は欲しい。
あとそれ以下のサイズではエイリアンサイズからキャメを各1か。
ナチュプロで登れる数少ないルート。ぜひオンサイトして欲しい、なんてことはオンサイトできたから言えることか(笑)
※初登時はデカイカム一切持っていなかったようですが…凄い!
記:渡辺
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